和歌と俳句

花の雨

煙突の煙ながながと花の雨 石鼎

花房の滴や花の雨の中 石鼎

根分終へし芍薬畑に花の雨 立子

汽車下りて花の雨降る京都かな 立子

かけ込みし花の家静か花の雨 立子

汽車入りて停車場くらし花の雨 蕪城

燈籠のかずかず濡れぬ花の雨 みどり女

花の雨浪花やすでにともりをり 万太郎

葺きあまる萱にそそぐや花の雨 麦南

花の雨風さへそひて夜もすがら 麦南

かくれ住む人訪ねたし花の雨 立子

人来ねば鼓打ちけり花の雨 たかし

めりがちの鼓締め打つ花の雨 たかし

落ちあひし筆の穂先や花の雨 万太郎

花の雨竹にけぶれば真青なり 秋櫻子

花の雨大にふりて屋をおほふ 秋櫻子

想ひ寝の覚めては遠し花の雨 友二

雪吊のとれたる松や花の雨 万太郎

鏡台も衣桁も朱に花の雨 万太郎

冥々晦として昼の花の雨 石鼎

煎餅を犬がかむ音花の雨 立子

風呂汲みの昼寝も一人花の雨 久女

風に汲筧も濁り花の雨 久女

花の雨校門濡れてありしかな 鷹女

大いなる汽関車濡るる花の雨 汀女

参詣の人に俄かな花の雨 虚子

家設けしつつすぐれず花の雨 たかし

遠山は雪まさるべし花の雨 たかし

花の雨買ひ来し魚の名は知らず 

浦安を這ふ雲くらし花の雨 秋櫻子

花の雨いのち大事にしたきかな 万太郎

濁流に花の雨やむ日の像 蛇笏

としまやの瓦せんべい花の雨 万太郎

鏡台にぬきし指輪や花の雨 真砂女

花の雨鮑のわたを煮込みけり 真砂女

槍烏賊の皮はぎやすし花の雨 真砂女

花の雨強くなりつつ明るさよ 虚子

起きぬけの気むつかしさや花の雨 虚子

草の戸を叩きて又も花の雨 虚子

忽に景色変りて花の雨 虚子

門前に自動車止り花の雨 立子

釣堀に水輪あふれぬ花の雨 波郷

花の雨遺影引伸ばされ薄れ 林火