雪よりも真白き春の猫二匹
美しく残れる雪を踏むまじく
洋服の襟をつかみて春寒し
けふも亦春の寒さか合点ぢや
かかはりもなくて互に梅椿
犬ふぐり星のまたたく如くなり
白酒の餅の如くに濃かりけり
白酒の紐の如くにつがれけり
五女の家に次女と駆け込む春の雷
開帳の時は今なり南無阿弥陀
春雨のくらくなりゆき極まりぬ
土塊を一つ動かし物芽出づ
芽吹く木々おのおの韻を異にして
蒼海の色尚存す目刺かな
枯蔓をいかに脱がんと椿かな
落椿道の真中に走り出し
鴎の目鋭きかなや春の空
娘の部屋を仮の書斎や沈丁花
うは風の沈丁の香の住居かな
もてなしの心を花に語らしめ
手を挙げて走る女や山桜
楼上に客たり花は主たり
春風や離れの縁の小座蒲団