和歌と俳句

沈丁花 丁字 瑞香

沈丁のにほひ兵馬を行かしむる 鷹女

沈丁に兵馬の響きいまはなし 鷹女

沈丁に軍馬と兵と疲れ過ぐ 鷹女

沈丁は新しき墓に多き花 

沈丁にはげしく降りて降り足りぬ 汀女

掘りすてゝ沈丁花とも知らざりし 久女

冴返る二三日あり沈丁花 素十

鎌倉の月まんまるし沈丁花 素十

日おもてに咲いてよごれぬ沈丁花 素十

沈丁の香を吐きつくし在りしかな たかし

沈丁の前に立ちゐる吾子小さし 杞陽

丁子の香をしみなければ馴れて住む 青畝

丁子の香おひかけてくる回縁 青畝

沈丁の香の石階に佇みぬ 虚子

沈丁に夕べのあをさまさりくる 信子

娘の部屋を仮の書斎や沈丁花 虚子

うは風の沈丁の香の住居かな 虚子

沈丁の花や一邸のものならず 誓子

沈丁のほとりなりけり目ひらけば 楸邨

沈丁は咲きあふれをり米は来ず 楸邨

部屋部屋のうすくらがりや沈丁花 信子

霊前に供華沈丁の夜のかをり 蛇笏

とりわけて沈丁に日の濃かりけり 万太郎

沈丁花鼠族を憎む夜といへど 綾子

沈丁花飛雪のなかとなりにけり 万太郎

ぬかあめにぬるる丁字の香なりけり 万太郎

灯の下に瓶の丁字に伏して書く 立子

あるじなき庵の荒れみよ沈丁花 万太郎

せせらぎの耳に立つ夜や沈丁花 草城

沈丁やうからといへど母ひとり 汀女

一歩ゆき一歩もどりて丁子の香 立子

丁子咲き夫婦が一つづつ咳す 双魚

沈丁の一夜雪降りかつにほふ 悌二郎