美しやとて立ち出でぬ春の雨
姿よく能なき硯春の塵
何といふ雛よと問はれ桃山と
春泥に歩みあぐねし面あげぬ
囀に耳あそばせて手紙かく
山吹のまさをなる葉に黄点点
次の間を開けて仏間や草の餅
昼餉豪華花の梢を欄に
花づかれ人よけ立ちて髪に手を
捨てしものすぐ散り浮くや春の潮
春炬燵あぎとをのせて不機嫌に
春蘭や實生の松にかこまれて
手をついて振り向き話す花しどみ
灰皿に茶托に桜餅の皮
薄く刷き薄く刷き消え春の雲
五分おき電車が通る蝶が舞ふ
此処からも大佛見ゆる春の空
朝寝して吾には吾のはかりごと
松にうもれ松に突き出で花二本
娘泣きゆく花の人出とすれ違ひ
遠目にも山吹の黄の一重なり
交へたる枝大景に瓶の梅
灯の下に瓶の丁字に伏して書く
茶の間今暗しや春の驟雨来