和歌と俳句

星野立子

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美しやとて立ち出でぬ春の雨

姿よく能なき硯春の塵

何といふよと問はれ桃山と

春泥に歩みあぐねし面あげぬ

に耳あそばせて手紙かく

山吹のまさをなる葉に黄点点

次の間を開けて仏間や草の餅

昼餉豪華花の梢を欄に

花づかれ人よけ立ちて髪に手を

捨てしものすぐ散り浮くや春の潮

春炬燵あぎとをのせて不機嫌に

春蘭や實生の松にかこまれて

手をついて振り向き話す花しどみ

灰皿に茶托に桜餅の皮

薄く刷き薄く刷き消え春の雲

五分おき電車が通る蝶が舞ふ

此処からも大佛見ゆる春の空

朝寝して吾には吾のはかりごと

松にうもれ松に突き出で花二本

娘泣きゆく花の人出とすれ違ひ

およそものわびしき能登花冷

遠目にも山吹の黄の一重なり

交へたる枝大景に瓶の梅

灯の下に瓶の丁字に伏して書く

茶の間今暗しや春の驟雨来