うつ伏せに風につつつつ落椿
囀に心あそばせ子守唄
秋好きといひしは昔花下に老い
紅梅の花見て今日を占ひぬ
一花揺れ二花揺れ椿みんな揺れ
春塵の鞘阿弥陀佛御目伏せ
山寺や涅槃図かけて僧一人
国境はポプラ並木や春の雨
雛の前今誰もゐず坐り見る
春昼のあくびうつりて彼が今
表札は佐々木信綱風光る
暖かやいつも貧乏してをりて
土筆つみゐし子が一人白魚塚
鶯や板三打してすぐ返事
春惜み命惜みて共にあり
種俵ひつぱる縄の一文字
皆水に浮きぬ手桶の蕗の薹
春寒の指環なじまぬ手を眺め
ふるさとに似し山河かな遍路来る
鉛筆で書く音静かチューリップ
啓蟄の虻はや花粉まみれかな
雛納め何か淋しく母を訪ふ
奇蹟待ちつゝ春雷をききゐたり
この庭の今天国や花吹雪
春雷や刻来り去り遠ざかり
志す惜春の句や墨をする