長羽織著て寛濶の二月かな
春になほとほきおもひや針供養
老友といしくもいへりねこやなぎ
さりげなく咲きたる梅のさかりかな
雨がちにはや三月のなかばかな
きさらぎやしかへてあをき垣の竹
雪やみし日のさしてくる雛かな
鎌倉の松風さむき雛かな
春の雪卓燈昼をともるなり
鎌倉といひてもひろき燕かな
春泥や半丁ほどのあともどり
ものの芽のあるひは紅きあかざの芽
葉のつやを逃げてつばきのしろきかな
一ぱいに日のさしわたる日永かな
草餅や風にのりくる波の音
とりわけて沈丁に日の濃かりけり
ゆつくりと時計のうてる柳かな
ときをりの風のつめたき櫻かな
かまくらによひどれおほき櫻かな
よみにくき手紙よむなり花曇
桃にそへて挿す菜の花のひかりかな
きりあめにぬるるつつじのつぼみかな
松の蕊むれて鳥の音へだてけり
ぬかあめのあかるき松のみどりかな
日食のすみたる藤のふさの垂り
ゆく春のうすき日もこそ立話