和歌と俳句

三橋鷹女

人の子に美醜はありて寒明け

けものらの耳さんかくに寒明け

人の子に白玉椿咲きいでぬ

椿昏れ女あり神を懼れける

春愁の二つのいのち相寄りぬ

烏蝶あはれ啼かねば昏れてしまふ

蒲公英昏れ蟇暮れこころ哭いてゐる

春昼のくらげを食みしかば黙す

十本の指ありげんげ摘んでゐる

愁ひ身にあれば紫雲英の野は白し

たにし田の田螺と聴いてゐるひばり

寂しさよ昏れて田螺の吐く水泡

をみな子を生ままく欲れり のもと

髪濃ゆく吾子は生ままし朝ざくら

涅槃来る女にましろのたなごころ

ねはん会の近くて重き髪と知る

つはものの雄叫ぶ文と来し二月

しらじらと二月荒浪吾を喚べる

詩に痩せて二月渚をゆくはわたし

春もづくほろほろうまし灯が幽し

魚臭き濱のたんぽを掌に摘みぬ

春愁は皮はぎを食ひをこぜを焼き

沈丁のにほひ兵馬を行かしむる

沈丁に兵馬の響きいまはなし

地階の灯明るし春の林檎買ふ