和歌と俳句

三橋鷹女

月日経ぬ雪解の雫百方に

椿落ち椿落ちこころ老いゆくか

ゆきやなぎ明治を語るひとも亡し

中年の辛夷を愛づる限りなく

耳遠き母にさへずり昼過まで

わが影やうこんざくらの影に添ひ

初蝶や心のどこか濡れそぼち

蘖のおそろしきほどの二三日

待たれゐる如しも辛夷咲きたけて

咲けば女人あはれや桃に昏れ

春昼の睡きポストに文託す

牛叱る声かやひびくげんげ田に

溜息が田螺を生みぬあはれあはれ

黄梅に佇ちては恃む明日の日を

青天と辛夷とそして真紅な嘘

雲雀野や牛馬を視るも手かざして

巣燕に金星見えぬとも限らず

欅ありはぢらふ如く芽吹きつつ

春愁の椎を見つけて歩み寄る

春尽くる人の美貌を街に見て

こでまりの花より明けて空財布

春浪に女は尾鰭のなき歎き

猫柳女の一生野火のごと

意満ち来れば春川ながれけり

や過去は金襴緞子もて