和歌と俳句

三橋鷹女

花買はな雪解け窓を押し開き

蟹食うて春の愁いはあらざりけり

憂鬱日沈丁の鉢を近よせず

沈丁やをんなにはある憂鬱日

日の昏れてこの家の躑躅いやあな色

春宵のくらげは人と来て食べぬ

二月来るながき眉毛を吾がひけば

しんしんと草萌え人等日を経たる

おたまじやくしの生るる日の字を書き並べ

みんな夢雪割草が咲いたのね

春愁の世にかほばせのほそくあり

耳二つ雲雀を聴いてゐるじつと

健康なおのれを得たり雲雀野に

うろくづにゆふべがくるよひばりにも

平凡なをんなに咲きぬ茱萸の花

そこばくの憂ひをいゆき陽炎

空漠とてのひらはあり蝌蚪生まれ

咲き吾が生ままくの子をおもふ

女の香わが香をきいてゐる涅槃

蹠に地ぬくしねはん近づける

たなぞこの子の掌ぬくとしげんげ咲く

げんげ田はまろし地球のまろければ

摘めど摘めどげんげ尽きねばかなしかり

おもふことみなましぐらに二月来ぬ

死もたのし二ン月穹の蒼き日は