和歌と俳句

三橋鷹女

ちるさくら少年白鶏を友とせり

ちるさくら卵しろたへに生み落され

ちるさくら病院船はわだなかに

饒舌が坂を下りゆき辛夷耀る

もみくちやに辛夷は吹かれ心吹かれ

春は侘し場末にひとり見る映画

遺児の列長し春塵木々に舞ふ

春昼に耐へてましろき鰈を焼く

あはれ頭に野はかぎろへり皿洗ふ

東風の窓子に教ふべきこと尽きじ

春愁ふ真珠の吾こをかたはらに

夜々おぼろ皇ら御国は戦へど

春林檎食みちらばして夜更けたり

ひとひらの雲ゆき散れり八重桜

山笑ふ吾子の饒舌谺を呼び

陽炎に人を伴ひゆくはかなし

木蓮の莟日日にあり憂ふ

木蓮の莟兵馬を征かしめぬ

戦ひを思ふ雲雀野ゆくときも

かなしみに女は耐ふべし雲雀鳴く

花吹雪校門吾子を入らしめぬ

ひとり子の我が子かに言誓ふ

花の雨校門濡れてありしかな

花冷えの鼻梁正しく立ち並べり

はなびらの散りつつ火となんぬ