和歌と俳句

三橋鷹女

天曇る日は風船もかなしめり

かなしびの満ちて風船舞ひあがる

春水のそこひは見えず櫛沈め

鴉啼きわたり春日たはけたり

人を焼く鋭き火のいろに野を焼ける

霞立つたらちねの背の折れ曲り

掌に皺を刻む春水うづたかく

梅に新月舌にもたつく金太郎飴

忘却や神の杉菜を蹠に踏み

森にゐては白毛飛ばすなり

春眠や金の柩に四肢氷らせ

初蝶に触れんと墓石伸び上る

蝌蚪を飼ふ加減乗除の技拙く

四月尽く凧の慟哭地におろし

梨花の香へ突つ込む農の跨ぎ足

卒業や造花のバラに蕋を植ゑ

春雪いくたび切腹で終る色彩映画

遡り来て一握の種子を蒔く

遠ちに僧形木蓮ぐぐと花開く

てのひらに蜂を歩ませ歓喜佛

金星菱形伏目のを祭れよと

満開の切なさ辛夷蒼味帯ぶ

涅槃ちかづく造花の蕋に花粉とび

陽の白書 朝出の蝶にあぶりだし