高浜虚子
落椿紅白にして尽大地
東山西山こめて花の京
世直りて草の庵の雛祭り
傍らに人無き如く梅にあり
閉ざしたる老の我儘梅が門
離々として鬱々として春の草
雪残る村の小家を打ち囲み
妙高の雪は雲間にまかがやき
立山の其の連峰の雪解水
ここに来て百万石の花見せん
姉妹の著物貸し借り花の旅
花の雨強くなりつつ明るさよ
起きぬけの気むつかしさや花の雨
草の戸を叩きて又も花の雨
春雨の音に目ざめし旅がへり
花にやや遅れたれども鐘供養
春の空笠の如くにかぶさりぬ
直線の堂曲線の春の山
大空に春の雲地に春の草
忽に景色変りて花の雨
花見にと馬に鞍置く心あり