和歌と俳句

川島彷徨子

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芽ぶく樹々どの樹もここだ花を垂る

大いなる春陰の海うねりつぐ

磯にくるやはつきりと東風となりて吹く

東風うけて船鍛冶の火床火をとばす

麦あをく濤一ヶ所にとどろきつぐ

夏草の花しろく妻みごもれる

窓鎖すや火取虫壁はなれとぶ

食べきれぬ苣萵の葉をかき庭すかす

露地灼くる真青き海を奥にして

杏いくつか熟れてをりぢつと灼けつづく

樹にからむ隠元大き莢たらす

畦の豆青田を一枚づつにかぎる

雲ひかり青田のうへの蜻蛉ひかる

雷遠しあをみどろ泡をうかべゐて

池の熔滓かたよりゐたり颱風来

夏雲のだんだらの斑や磧うごく

蜜柑の蔕枝先しろく海かげる

蜜柑食ひつつ青海を貪れる

稲架の奥なほあけきらず靄を吐く

熔銑だし待つ余熱の坩堝にあたたまり

喧嘩の処置かんがへてひとり日向ぼこ

櫟のみちおのづと氷る沼にいづ

涸溝の底つたひ田に人通ふ

四五枚の田と氷りをり小さき沼

解けぬ氷まんなかにありあをみどろ

すきとほるいろこそよけれ手も燠も

炭火あたたかし壺に菜の花あり

白梅がうるむと傘をさして通る

海の風巷にこもり雪しまく

白樺にうすき雲きて雪ふらす

さくら挿すや昼の翳わく身のほとり

風塵のそこひにあはく犬ふぐり

白梅の家にして径なくなりぬ

鴨の啼く杉より槻へ風わたる

榛の木の芽だち一夜にみどりせり

夜のまに供華のさくらの花ちれる

靴二足ともにかすかにかびゐたり

風たちて連翹の黄はうすれけり

石あをきあはひつぎつぎ鮎のぼる

赤子泣き家に暖気をこもらする

菎麻しげり菜をまくところなくなりぬ

工場へ一筋の街夏終る

日本海真青なり街露に濡れ

雲裏ゆ月光漏れて稲冷ゆる

稲架風に鳴りきらきらと真昼の日

熔銑くらみを雪の戸口に出ていやす

機械場の機械がくろく雪ふれり

水つ洟すする間に黒鉛坩堝となる

小鳥の音北風に消えつつ田ゆきこゆ

どこまでも白くかわきて生駒の田