和歌と俳句

川島彷徨子

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足袋ぬいでからびはてたる肉刺を剥く

桑枯れて山と平野と噛みあへり

松まじり枯れて御嶽へつづく丘

とけそめて砂糖のごとき雪の嵩

雪雫ひかりとなりて樹をつつむ

雪霏々と日蔭日向となくつもる

雪汁の大岡川は瀞なせり

芽ぶく樹々とほきはただに枯れし樹々

樹液たつ槻やはらかし倚り憩ふ

春潮に窓の硝子戸罅うかす

春浅き岬石蕗の葉密生す

白南風に月よりうすく日おちゆく

暮永きかの街の空われ忘れず

別れきて駅に夜となる雷ききぬ

面影をあやめにみつつたへがたき

夏千鳥醒めて枕の下にきく

爆死せる人を羨しみ薔薇を愛す

乾草の香を全身にわれ悔いず

灯を消すや外は蛙の白夜なる

とほきひとの紫紺にかさなりぬ

落葉松の巣箱に湖光明滅す

まうへ舞ふ蝶のまうへは唯紺青

草に寝て遠近わかぬ雷ききぬ

山梨の実にのこれるこころひく

毛野の空狭間の奥に灼けつづく

しんしんと空あをく左右の匂ふ

稲妻のするたびに浮く雲の筋

蜜柑ちぎり相模の海のあをきにくだる

谷をつく驟雨ひかりの層をなす

北風の河岸銑鉄船ひくく河岸につく

曳船の綱朝凍の水たたく

老いし舸子艫の日向に孫匐はす

銑鉄船のなかを稲船ぬけてゆく

月いでて早稲も晩稲もなくなりぬ

先をゆく男闇よりくらくゆく

霧の奥ひかり帯びつつ電車こず

雲の下蝌蚪のごとくに鳥わたる

おなじ人おなじ机に咳しつぐ

榛咲くとこころははずみゐたりけり

悪寒する一日われ背を感じゐぬ

北風にいらだてば咳きし胸ほてる

吸入の一心生毛ぬらしつつ

冬木みるたび裏切りし眸がうかぶ

春の雲しろきままにて降りだしぬ

わがいのち何にほめくや鷄は菜に

逢ひにゆく朝菜の花を折りつぶす

芽ぶく道わが跫音にわれいそぐ

恋ひつつぞ花菜を切に美しと見き

蛙とほし蛾一匹窓たたきつぐ

吹かれつつ的確に花につく