和歌と俳句

加藤楸邨

朝の潮のごとく朱が満ち来

壁越しに病問ひあふ秋の風

白菊のもはや昏れざるまで昏れぬ

のさびしくなりて「もういいか」

の朱に亡びざるもの何々ぞ

乳児のねむり落下のごとしの中

あきらめて鰤のごとくに横たはる

一人づつそしり林檎は食ひ足らぬか

高熱の視野まつさをに冬の竹

木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ

来ては去る枯木枯木や咳の中

いくたびか寝てさめてまた冬の天

貨車押して片目は枯野見つつあり

こがらしや女は抱く胸をもつ

寒卵のみくだす感極まりて

紙屑をすてて枯野をひからしむ

臥つつおもふ宗谷の果のの梁

はるかなこゑ「茶の花がもう咲いてます」

今もなほ骨還りつく枯葎

茶の花に灯るいつかは還りこむ

除夜の鐘の前か後かに雨をきけり