牛の死やかたへに舞へる蝶の影
春暁曳く一貨車一本の大き欅
非は常に男が負ひぬ帰る雁
野の起伏ただ春寒き四十代
汽罐車の胴体濡れてほととぎす
砂糖嘗めて生きてゐよとや旱雲
炎天へまひるの炎つつつつと
人の訃やただうちまくる蠅たたき
腕くむはかなしさと知る蝉の中
蜘蛛の子が湧くがごとくに親を棄つ
柘榴火のごとく割れゆく過ぎし日も
蟻地獄ただどん底に月さして
汗垂れて昔恋せし顔昼寝
短夜の青嶺ばかりがのこりけり
蜩の街角はあり人は亡し
句もあらず子規忌は藷をくふだけに
露のんで猫の白さの極まるなり
月明りさしゐる臍は見飽かぬかな
紙屑のごとくに死んで法師蝉
猫と生れ人間と生れ露に歩す
舌の毒鶏頭はいま燃えつつあり