和歌と俳句

篠田悌二郎

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礁うつ波のくだけは麦に散る

みぢか夜の潮さゐ家をおもはしむ

昼顔はみな日に向けり海は凪

鮑採るくるしき息は岩に吐く

鮑採る岩根はあおく透り見ゆ

埼とほく波はあがれりいちご畑

梅雨の日の烈しくさせば罌粟は燃ゆ

桑剪るや桑にも来鳴く葭雀

合歓の花ほのかなれども水くらし

日車の影は日覆にまぎれなく

初蝉や疲れて街をゆきしとき

朝の音のやうやく耳につく

水を見てゐれば蛍うつしけり

鮎釣や野ばらは花の散りやすく

波ゆけば畦は越ゆべき田を植うる

植田より畦まさをなり走りたる

早乙女にまちかく利根の鳰鳴けり

さく門べにわらべ漕ぎよする

よしきりや閘門舟をはきて閉づ

閘門をひらけば渦の浮葉かな

トマトもぐ手を濡らしたりひた濡らす

夾竹桃窓に燃ゆれば事務に倦む

灯蛾の来て夕顔うてば宵更けぬ

黍のみち水着の子らを連れもどる

闇ひさし蚊火ちさけれど寄りつどふ