和歌と俳句

篠田悌二郎

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菖蒲田の季すぎ燕畦あゆむ

菖蒲田の七月彩を残すあり

遅れ咲くは咲くで競へり菖蒲園

低き雲低き飛燕に町の饐え

の誘はれ流れ還へられず

萍が隙慌て閉づ何か跳ね

咲いて三日鉢の浜木綿もうだれて

簾捲き上げてさし入る苔あかり

淡き草容れ梅雨苔の緑世界

夜の網戸更け戸ざすまで銀杏立つ

薔薇あふる垣夢見しが今年ほぼ

花溢る薔薇垣の栄え二三週

夜の客の気づかぬ薔薇に灯を照らす

乗り出して瀧に影揺る藪手毬

敗亡の古城址翔くる黒揚羽

敗衂の地とて葉櫻蔭ふかし

あぢさゐのさみどり母は若く死にき

露の珠だいじに嫩き蓮浮葉

蓮揺らし身を倒し過ぐ錦鯉

鯉去つて後も揺れをり蓮嫩葉

白き鯉橋の蔭出ず梅雨ぐもり

還るなき刻水ふかく蓮莟む

アカンサス梅雨晴葉蔭八方へ