草つゝみ 病みふせるわが 枕邊に 牡丹の花の い照りかがやく
たて川の さちをがりより 贈り来し 牡丹の花に ふみ結びあり
くれなゐの 光をはなつ から草の 牡丹の花は 花の王
蓬生の 病の床に 鶴をくひ 牡丹のながめ わが富貴足る
古鉢に 植ゑし牡丹の 枝長く よろよろとして 一輪開く
夜芝居を 見て歸るさの 野路遠み 十日あまりの 月傾きぬ
ますらをを くはし少女に よそほひて 情けの多き 人を泣かしむ
花道の 橋かけ道ゆ いで来たる わざをぎ人の 名を呼びはやす
都邊の かぶきわざをぎ 見し事を 妹に語らん 夜をしぞ待たる
古里に 歸りて見れば 小芝居の 檐端高しり 町にぎはひぬ
村人の たぬしきをへば 豊の秋の くぐつ芝居を 見るにしあるべし
芝居すと 畑に建てたる 假小家の そのもとほりの 麥ふみあらす
手拱て 事なき御代と わざをぎの そら泣事に 人つどひ来も
わざをぎの すなる芝居を 世にもなき いつはり事と もへど悲しも
天ざかる 鄙のちまたを 車なめ 都わざをぎ のりめぐらすも
山吹は 南垣根に 菜の花は 東堺に 咲き向ひけり
かな網の 大鳥籠に 木を植ゑて ほつ枝下枝に 鶸飛びわたる
くれなゐの 二尺伸びたる 薔薇の芽の 針やはらかに 春雨のふる
汽車の音の 走り過ぎたる 垣の外の 萌ゆる梢に 煙うづまく
杉垣を あさり菜の 花をふみ 松へ飛びたる 四十雀二羽