和歌と俳句

正岡子規

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すめろぎの み子のみことの 大み女と 玉串さゝげ 神契ります

さす竹の 宮人祝ふ 今日の日に 藤をかざして 民もよろこぶ

くれなゐと 眞白と並び 咲く花の 牡丹も君を ことほぐが如し

百花の 千花を絲に つらぬける の花房 長く垂れたり

廣庭の 松の木末に 咲くの 花もろ向けて 夕風吹くも

廣前の 池の水際に しだれたる の末花 鬢にさやりぬ

公達が うたげの庭の 藤波を 折りてかざさば 地に垂れんかも

池の邊の さじきに垂るゝ 藤の花 見れば長けく 折れば短し

吾妹子が 心をこめて 結びにし 藤波の花 解くかまくをしも

吾妹子が 手馴の琴の 絲の緒と 長さあらそふ 藤波の花

吾庵の 檐端にかけし 鳥籠の 鳥さへづらず 春の日曇る

天地の そぐへのきはみ 晴れわたり 舟群るゝ江の 俄に曇る

久方の 曇り拂ひて 朝日子の うらゝに照す 山吹の花

古里の 御寺見めぐる 永き日の 菜の花曇 雨となりけり

八汐路の 海をへだてゝ つらなれる 紀伊の國山 曇りて暮れぬ

同じ朝 縄許されし ぬす人と 人屋の門を 出でて別れぬ

くろがねの 人屋の門を 出でくれば 桃くれなゐに 麥緑なり

かげろひの はかなき命 ながらへて 人屋をいでし 君痩せにけり

人屋にて 君がみがきし たぼはさみ たぼにはさまん 少女子いづら

都邊の 花のさかりを 十日まり 五日人屋の 内に泣きけり

放たれて 人屋の門を 出でくれば 茶屋の女の 小手招きすも

ぬば玉の ヤミのひじきは 北蝦夷の ダルマの豆に いたくし劣れり

春鳥の 巣鴨の人屋 塀を高み き麥生の 畑も見えなくに