和歌と俳句

種田山頭火

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ちつとも雲がない山のよろしさ

おもひでは山越えてまた山のみどり

刑務所の高い塀から青葉若葉

ま昼ひろくて私ひとりにあふれる湯

ぞんぶんに湧いてあふれる湯をぞんぶんに

ちんぽこもおそそも湧いてあふれる湯

初夏の牛どもよ載せられてどこへ行く

こんなに晴れた日の猫が捨てられて鳴く

雨ふる竹をきる濡れてゐる

死んでもよい青葉風ふく

雀ここまで子を連れてきてだんだんばたけ

大きな鋸が造作なく大きな木を炎天

雨ふる生えてゐる木を植ゑかへる

百姓も春がゆく股引のやぶれ

たまたま髯剃れば何とふかい皺

ひとり、たんぽぽのちる

寝るとして白湯のあまさをすする

白うつづいてどこかに月のある夜みち

寝苦しい月夜で啼いたほととぎす

てふてふとまるなそこは肥壺

悔いることばかり夏となる

いつでも死ねる草が咲いたり実つたり

おたがひにからだがわるくていたはる雑草

胡瓜の蔓のもうからんでゐるゆふべ

とんぼついてきてそこらあるけば

前田も植ゑて涼しい風の吹いてくる

すでに虫がきてゐる胡瓜の花

さつそくしつかとからみついたな胡瓜

がうれたよ嫁をとつたよ

なにがなしあるけばいちじくの青い実

子を負うて魚を売つて暑い坂かな

茂るだけ茂つて雨を待つそよぎ

蜂がてふてふが花草なんぼでもある

風のふくにしいろい花のこぼるるに

風の中の道どこまでつづく

風ふくてふてふはなかよく草に

風ふく山の鴉はないてゐる

いちにち風ふいて永い日が暮れた

暮れて吹きつのる風を聴いてゐる

風をおきあがる草の蛇いちご

鳴きつつ呑まれつつ蛙が蛇に

雨をたたへてあふるるにういて柿の花

霽れててふてふ二つとなり三つとなり

いつでも植ゑられる水田蛙なく

夏めいた空がはつきりとあふれる水