和歌と俳句

各務支考

何に此末摘花を老の伊達

立かかる清水や岩に百合の花

琴の音をのぞけば百合の月夜哉

鷺の子や錫一対に菱の花

麻の葉もそよと越後のにほひかな

背戸の戸の明やう見たり麻の花

美濃を出てしる人まれや瓜の花

夕晴の雲や黄色に瓜の花

余所余所の山は覆盆子の盛哉

麦時や三弦ひきに鉢ひらき

むき肌は藍を出けり東寺瓜

苔の名の月まづ涼し水前寺

稲稲とそよぐはつらし門の秋

鳥辺野は遁れずやこの浦の

一筋の糸よりかなし今朝の秋

猿猴の手をはなれてや峰の

瀬田の月又来る筈に定りぬ

名月や膳にすゑたる東山

芋を煮る火のはた恋しけふの月

二見まで庵地たづぬる月見哉

罪ふかき我や彼岸の生綿取

松風に新酒を澄す山路かな

木つつきの音や銀杏の散がてら

鉢ひらき彼岸にわたる小鳥かな

粟の穂を見あくる時や啼鶉

牛叱る声に鴫たつゆふべかな

逢坂で聞かばや駒のくつわ虫

薬園の花にかりねや秋の蝶

切箔の風にちらはふおぼこ哉

初鮭や網代の霧の晴間より

越後路は百里にかなし今日の秋

花紅葉佐渡も見えたり浦の秋