和歌と俳句

星野立子

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黒蝶や崖のうつぎの下をとぶ

吹く風にのりきて竹の落葉かな

箱根見ゆる鎌倉山の月見草

金魚玉にうつることあり風の木々

吹きなびく真菰に人や水車踏む

吹き靡き真菰の中に杭見ゆる

たれ下る菖蒲の花に雨のすぢ

花菖蒲咲ききりたりし花かろく

広々と紙の如しや白菖蒲

ゆるやかに人続きゆく花菖蒲

太藺中何か起りし水騒ぎ

橋渡る下駄の響きの太藺かな

緑蔭に釣りゐる子等に鳰遠し

釣れし鮠見せあふ子らや木下闇

倒れ伏す太藺の上を夏の蝶

天瓜粉はけば我が子はまだ幼な

遊船を追うて飼犬かけまはる

瀬の音のまさりゆきつゝ河鹿かな

月の出の今宵おそしと蚊帳をいづ

旅馴れぬ子の寝つかれぬ蚊帳広し

本読むや昼の蚊遣の静かさに

青田中西日に延びし汽車の影

草山の吹き騒げども百合静か

涼風の合歓大木に花一つ

土用浪くづれし中へ子等もぐる