逸り鵜になほ舟を撃ち聲を懸く
篝火に鵜匠や一人燃え立てり
鵜篝ははや下にあり長良橋
鵜篝の夢にも燃ゆる名残かな
師友老いぬ童顔老いざる茅舎の忌
朴の花高朗として故人生く
童顔の永久にあはれや茅舎の忌
かなかなや欅屋敷と称へ古り
落葉松のあかとき露に浴衣人
落葉松の露に立ち濡れ月見草
老鶯の蹤きくるごとき山歩き
爽涼の甲斐駒ケ嶽馬頭拳し
鎌倉の遺構存置す蝉の寺
萬力に懸けて石組む夏の庭
萬力の起す一石蝉時雨
老鶯の限る空より雲の峰
穂高嶺の雲居遥かに来る秋か
穂高嶺の立たす雲路のすでに秋
夏雲の奥鬱窟と穂高在り
赤岳ゆ南なびきに雲の峰
盤台を滑る鰹や掴み切る
梅雨明けのためらひゐるや病また
月見草浄らかに咲き月濁る
月の穢に妙にも黄なる月見草
晩涼の月見草皆咲き終る