和歌と俳句

松本たかし

逸り鵜になほ舟を撃ち聲を懸く

篝火に鵜匠や一人燃え立てり

鵜篝ははや下にあり長良橋

鵜篝の夢にも燃ゆる名残かな

師友老いぬ童顔老いざる茅舎の忌

朴の花高朗として故人生く

童顔の永久にあはれや茅舎の忌

かなかなや欅屋敷と称へ古り

落葉松のあかとき露に浴衣人

落葉松の露に立ち濡れ月見草

老鶯の蹤きくるごとき山歩き

爽涼の甲斐駒ケ嶽馬頭拳し

鎌倉の遺構存置す蝉の寺

萬力に懸けて石組む夏の庭

萬力の起す一石蝉時雨

老鶯の限る空より雲の峰

穂高嶺の雲居遥かに来る秋か

穂高嶺の立たす雲路のすでに秋

夏雲の奥鬱窟と穂高在り

赤岳ゆ南なびきに雲の峰

盤台を滑るや掴み切る

梅雨明けのためらひゐるや病また

月見草浄らかに咲き月濁る

月の穢に妙にも黄なる月見草

晩涼の月見草皆咲き終る

浜木綿の花咲くの気象台