和歌と俳句

河東碧梧桐

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猿綛も花かと岩の苔の花

温泉烟の田にも見ゆるや五月雨

時明りする木の肌や夏木立

沓ぬぎに家鴨も来るや避暑の宿

避暑に来て君書を読まず行李の書

砂を踏む道しばし来しが行々子

凪ぐまでを吹く夕風や行々子

真白くて出目の金魚が一つかな

縁ばかりまはる金魚の尾切れかな

待つ船を物見に出るや風薫る

大沼に小沼も近き青田かな

卯の花の村麦秋の野原かな

実桜も地に印す松落葉かな

温泉の里に氷室の馬を継ぎけり

烏鷺に似し客二人あり夏衣

山百合を束ね挿す蚊の夕かな

蛍籠樒売る家に吊しけり

葭村に落る流れや飛ぶ

大樹の下児女鶏犬に風薫る

滝澱や窟の神も鎮りぬ

立寄るやホ句のゆかりの杜若

百合涼し右にゆれても左にも

萍の渋色旱る日頃かな

膝と膝に月がさしたる涼しさ

夏菊に墨汁捨てし旅硯かな