五月の水の飯粒の流れ
清水ある道の人声の蕗
麦稈嵩に締め合せある障子
蚊の腹白き眉近く過ぐる
扇握りゐたる指を開けり
水汲みし石垣の日ざかり迫る
蟻地獄に遠しつぶらなる蟻
土用稽古半ば過ぎたる顔並べ
すずみし裸の袖とほす衣
すずみに出でし風あたる銀杏
ダリヤ伸び伸び茂れる早き
頭上に鳴く蝉鳴かずまだをる
壁にベタと蝙蝠の音の蛍火
葉桜の灯の遠い浅草の灯に立ち
青い実が出来た苺の葉傷み
子に高々と祭の飾り花を挿し
てもなく写生してしまひし石竹がそこにあり
毛虫が落ちてひまな煙草屋
まひまひが舞ひ蓮の莟は空に
子規庵のユスラの実お前達も貰うて来た
枝立つた無花果が葉になりつぼむやと仰ぎ
道に迷はず来た不思議な日の夾竹桃
夾竹桃赤いものを振り捨てんとす
白き日覆の我舟湖心に浮び出づれ
中庭の籐椅子空いたのがなく旅の大声