ありたけのきのふからの筍をむぐに交れり
妻に慊らぬ袷きる日のねむし
薔薇剪りに出る青空の谺
父はたゞ一人なる灌仏に行きたり
梅雨の地面が乾く立ちつくす彼ら我ら
彼ら一斉に口々に叫ぶ合歓は花なし
植木の針金が日盛りの日に錆びて
月見草の明るさの明方は深し
ぎつしりな本其の下のどんぞこの浴衣
麦秋の馬に乗る皆が長い足を垂れた
姉は生え際の汗のまゝにて
我が持つ一桶の水と芍薬の莟
柿の花ほろほろこぼれおつる下に参りて
暗く涼しく足の蚊を打つ音を立てた
端居して足の蚊を打つ音立てた
二人の胡蓙敷きのべて清水の広場
山開きの神主のひざまづく土
麦笛を吹く曇り出した風のそひ来る
通りぬけをする夜の人声の筍時分
薔薇をけふも書きついで色の淋しく
パン屋が出来た葉桜の午の風渡る
時鳥川上へ鳴きうつる窓あけてをる
昼顔の地を這うてゐる花におしまひの水流す
ひとり帰る道すがらの桐の花おち
一もとの折れて菖蒲切り花にする朝の雨ふる