和歌と俳句

河東碧梧桐

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牛の背に小坊主細きみぞれ

ものうくて二食になりぬ冬籠

砂の中に海鼠の氷る小さゝよ

土手道や酒売る家の冬木立

冬川の家鴨よごれて集ひけり

市中の冬の日早くともしけり

追ふて逃げる鴉かしこき枯野

鋸鈍く炭挽いて居る石の上

石垣に吹きよせる嵐かな

あぢきなく灰のふえたる火鉢かな

我善坊に車引き入れふる

寒林の貧寺焼けたり僧の留守

千鳥啼て浦の名を問ふ船路かな

はな水や看護婦老いて耳うとき

日暮里に下宿屋を探り霜柱

道と見えて人の庭踏む霜柱

生垣や人侘びて庭に霜柱

牡蠣殻や磯に久しき岩一つ

酒を置いて老の涙の火桶かな

水鳥のばさばさと立つ夜網かな

草枯に染物を干す朝日かな

ほしきもの年も暮れぬる新世帯

伊豆の海や大島寒く横はる

刈跡の葭原寒し水溜

流れたる花屋の水の氷りけり