和歌と俳句

河東碧梧桐

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避難港にかゝる旗亭や返り花

櫃の見る目甕のいふ口冴ゆるなり

旅痩の髭温泉に剃りぬ雪明り

冬川と水塚や処一の宮

菊枯れて庭にも一つ藁塚を

瓶の酒尽きざらん春隣ればや

海までの水路に偽砲浮寝鳥

墓石得しに書斎の煤日後れたり

弊政のことを偽銀や冴ゆる灯に

網代持てば鴨も時折拾ひ来て

有馬去りし口なれの卵酒もせず

孵化三年魚気澄む汀笹鳴きぬ

間切る帆を見る我と影を冬の月

唐崎の吹きさらし畑の柳枯る

海静かなるに石切る音や降る

煤流るゝ水と草原冬の月

山茶花が散る冬の地湿りの晴れ

山寒し霜消ゆる頃の山かげり

高楼の師走の灯枯枝のゆらぎ

鼻づらを曳く馬の師走の灯の中に

雪卸ろせし磊塊に人影もなき

水仙の地にへばる花の伸び端なれ

池氷る町よりの風埃立つ

水鳥群るゝ石山の大津の烟

飯櫃空らな返り花挿しあり

中庭の棕梠竹よ火鉢の用意