河東碧梧桐
毎日に暦見る老が懐炉かな
榾崩れせし音朝に響きけり
枯葛は燃えてもいぶる粉炭かな
綿厚き蒲団に父孫妻子かな
白足袋にいと薄き紺のゆかりかな
帰り来ぬ人北風に立つ日かな
小野の道刈田の霜に日和かな
雪除の高さを牛舎三棟建つ
宝塔に檜の風のみぞれかな
冬の夜に火の見の下の焚火かな
煤流るる水と草原冬の月
船人は碇綱買ふ師走かな
火の患水の患も古暦
煤掃の捨てもやらざる枯しのぶ
桶落ちて立つ庖刀や年の暮
簀囲ひの魚の潜みや寒の雨
凧に霰降り来る曇りかな
打返し藁干す時の 霰かな
森高う雨雪になりぬ静かさよ
雪掻いて礫酬いし門辺かな
鉢浅く水仙の根の氷りつく