和歌と俳句

河東碧梧桐

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硯を重ねつめたくも凝る心なる哉

草臥れの炭火を灰で覆うた

強い文句が書けて我なれば師走

親を離れた君を無造作に迎へて火鉢

酔うことの許されて我正しき火鉢

最後の話になる兄よ弟よこの火鉢

夜びてごそつく蒲団の襖であつて

弟を裏切る兄それが私である師走

懐炉の灰をあけざまに靴でふむ人だつた

トルストイの書いた羊皮の外套を思ふべし

古い粉炭が火箸があたる底に

去ぬることを忘れないで仰向になつて火燵

妻と雪籠りして絵の具とく指

風が鳴る梁の雪明りする

髭がぬれてゐるほとり

ポケットからキャラメルと木の葉を出した

窓の高さのすくすくとしてゐる冬木

厩口の三束の藁のまゝ降りこんでゐる

橋の茶店に休む水の面の落葉流るゝ

橋を渡り師走の町飾りする見て戻る

鉛筆でかきし師走便りの末の読みにくゝ

寺の甍を中に湖べ小村の雪ふゞきする

酒つぎこぼるゝ火燵蒲団の膝に重くも

炉の火箸手にとれば火をよせてのみ

西空はるか雪ぐもる家に入り柴折りくべる

雪のちらつく山を出はづれて笹を刈る山