和歌と俳句

河東碧梧桐

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並松も南下りや返り花

春待や何書を見ても得る所

種揃へしておこすなり春隣

喜ばしき時も淋しや置火燵

棚落ちて立つ庖刀や年の暮

蕎麦湯する背ろの音は鼠かな

炉の灰の降るに硯をいとひけり

臥牛山の麓の高野枯れにけり

立岩の裏も神ある落葉かな

蒲団二つ敷けば大佐渡小佐渡かな

千鳥来るや岬ともなき牛牧場

離れ家離れ岩あり飛ぶ千鳥

山茶花謫居の跡の寺一字

山茶花や供御ととのへし民哀れ

日和見の漁長が家や帰り花

佐渡でいふ国中平小春かな

鶚の巣見えて河豚釣る岩間かな

角鳴て闘ふ牛や今朝の

積藁の枯木の霜に雀かな

白磁さへ渡りと見えて水仙花

佐渡振りを賑ふ臼や寒の内

能の残る寒き国なり佐渡が島

海府便絶えしよにいふ眠る山

茶の匂ふ枕も出来て師走かな

橋開きありて師走の花火かな