和歌と俳句

河東碧梧桐

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百合の山路越え来て合歓の花の里

売り値待つ繭の主や秋近き

巫女頼む家の紫陽花垣間見し

持山の果なし藪や雲の峰

河骨も絵図にかきけり干満寺

削氷や鉾に乗る子にかしづきぬ

葉裏白き庭木吹く風蚊の出る

蚊柱や鐘楼の方に草深し

雨の若葉梁にや映る山家かな

明易き物嵩川岸の人声に

流れ藻も風濁りして行々子

芝平ら湖に住む家の百合燃えて

葭切に臥竜の松の茶店かな

森林帯沮洳に咲く花夕立ちて

森の楼薫風に立つ鷺も見て

茨の香やなど墾かずと訪ふ心

人何処に酔を買ひ来し夏野かな

蟹とれば蝦も手に飛ぶ涼しさ

飯綱より雲飛ぶ橡の若葉かな

花茨や里なづむ頃灰降りて

砲も過ぎしと教ふ夏野の車道哉

下山して蚊帳吊る夜も田植寒む

闘ひし牛とりこめぬ栗の花

富守れば父祖の蔵書も風薫る

山寺へ上す籠雉や風薫る

畳み持てば君に柄長な日傘かな