和歌と俳句

若山牧水

真昼の日 そらに白みぬ 春暮れて 夏たちそむる 嵐のなかに

いつしかに 春は暮れけり こころまた さびしきままに はつ夏に入る

あをあをと 若葉萌えいづる 森なかに 一もと松の 花咲きにけり

窓ちかき 水田のなかの 榛の木の 日にけに青み 嵐するなり

あなさびし 白昼を酒に 酔ひ痴れて 皐月大野の 麦畑をゆく

棕梠の樹の 黄色の花の かげに立ち 初夏の野を とほくながむる

水無月の 洪水なせる 日光の なかにうたへり 麦かり少女

遠くゆき またかへりきて 初夏の 樹にきこゆなり 真昼日の風

少女子の 夏のころもの 襞にゐて 風わたるごとに うごくかなしみ

いつ知らず 夏も寂しう 更けそめぬ ほのかに合歓の花咲きにけり

夏白昼 うすくれなゐの 薔薇より かすかに蜂の 羽音きこゆる

わが友の 妻とならびて 縁に立ち 真昼かへでの 花をながむる

麦畑の 夏の白昼の さびしさや ふと讃美歌の くちびるに出づ

黄なる 一穂ぬきとり 手にもちて 雲なきもとの 高原をゆく

わが顔も あかがねいろに 色づきぬ 高原のは 垂穂しにけり

皐月ゆふべ 梢はなれし 木の花の 地に落つる間の あまきかなしみ

ひとつひとつ 足の歩みの 重き日の 皐月の原に 頬白鳥の啼く

わがいのち 空にみちゆき 傾きぬ あなはるかなり 遠ほととぎす

たそがれの 沼尻の水に 雲うつる 麦刈る鎌の 音もきこえ来る

けむりあり ほのかに白し 水無月の ゆふべうらがなし 野羊の鳴くあり

麦すでに 刈られしあとの 畑なかの 径を行きぬ 水無月ゆふべ

野を行けば 麦は黄ばみぬ 街ゆけば うすき衣を をんな着にけり

六月の 濁れる海を ふとおもひ 午後あわただし 品川へ行く

月いまだ ひかりを知らず 水無月の ゆふべはながし 汐の満ち来る