和歌と俳句

若山牧水

わが妻よ わがさびしさは 青のいろ 君がもてるは 黄朽葉ならむ

めぐりあひ ふと見交して 別れけり 落葉林の をとこと男

冬木立 落葉のうへに 昼寝して ふと見しゆめの あはれなりしかな

武蔵野は 落葉の声に 明け暮れぬ 雲を帯びたる 日はそらを行く

ありのすさび 落葉ぼなかに 見いでつる 松かさの実を 手にのせてみぬ

かすかなる 胸さわぎこそ たへられぬ 黄葉ふりしきる 冬枯の森

いかにせむ むねに落葉の 落ちそめて あるがごときを おもひ消しえず

ふりはらひ ふりはらひつつ 行くが見ゆ 落葉がくれを ひとりの男

いと静かに ものをぞおもふ 山白き 十二月こそ ゆかしかりけれ

梢より 葉のちるごとく ものおもひ ありとしもなきに むねのかなしき

なにとなく さびしうなりぬ わが恋は 落葉がくれを さまよふごとく

荒れはてし 胸のかたへに のこりぬる むかしのゆめの うす青の香よ

うす赤く 木枯すさぶ 落日の 街のほこりの なかにおもはく

日向ぼこ 側にねむれる 犬の背を 撫でつつあれば さびしうなりぬ

別るる日 君もかたらず われ云はず 雪ふる午後の 停車場にあり

別るとて 停車場あゆむ うつむきの ひとの片手に ヴィオロンの見ゆ

別れけり 残るひとりは 停車場の 群集のなかに 口笛をふく