みちのくの 夕風あれて いづる月に こがね花ちる 沖つしら波
松にふく 夜半の嵐の 音たえて 梢にのこる 有明の月
むら雨に まじる霰の 玉ちりて 大筒ひびく ならしのの原
夜をこめて 熊やゐつらん くれなゐの 血しほ花ちる 雪の曙
水上の 秋やくれ行く 大井川に 紅葉おしわけて 筏さすなり
大海原 ふりさけ見れば ふじのねの 雪よりあくる 日の本の空
見し夢の 名残も涼し 檐のはに 雲ふきおこる 明がたの山
とくとくの 谷間の清水 あつめきて 巌をたたく 瀧の白玉
草枕 旅路かさねて もがみ河 行くへもしらず 秋立にけり
流れ行く 早せの船の あと見れば 水上遠し 有明のつき
立ちこめて 尾上もわかぬ 暁の 霧よりおつる 白絲のたき
夕されば 吹浦の沖の はてもなく 入日をうけて 白帆行く也
何といふ 願かしらねど 道祖神 どうぞじん虚に ならぬやうにと
飯の出る 山とも聞けば ありがたや 餓鬼も行脚も 満ぷくになる
すむひとの ありとしられて 山の上に 朝霧ふかく 残るともし火