和歌と俳句

正岡子規

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見せたのは 取りかへされず 今更に もてあましたる おのがくろ首

日はくれぬ 雨はふりきぬ 旅衣 袂かたしき いづくにか寐ん

まだきより 秋風ぞ吹く 山深み 尋ねわびてや 夏もこなくに

むらぎえし 山の白雪 きてみれば 駒のあがきに ゆらぐ卯の花

夏ながら 木曽の旅寝の 夜ぞ寒き のきば近くに 雲やゐるらん

むかしたれ 雲のゆききの あとつけて わたしそめけん 木曽のかけはし

草まくら 寐ざめの床の とこしへに 浮世のゆめを さませてしがな

寐ぬ夜半を いかにあかさん 山里は 月出づるほどの ひまだにもなし

足引の やまの白雲 心あれや わが行くかたに 立ちおほひつつ

いかめしく 身ごしらへした 雨合羽 篠つく雨は 屁とも思はず

草枕 むすぶ間もなき うたたねの ゆめおどろかす 野路の夕立

信濃なる 木曽の旅路を 人問はば ただ白雲の たつとこたへよ

昔見し いもかあらぬか あれまさる 檐端に白き 花のゆふがほ

我ばかり ならす扇の 涼しさは 人に知られぬ 秋やきにけむ

ながめすは 心にあかぬ 我よりも まづ撫し子の 花やうらみん

はちす葉は 濁れる水に 生ながら いかでや露の 玉と見ゆらむ

遠近に きぬたの聲の 聞ゆ也 薄の風に くるる一ツ葉

とはばいかに 同じ園生に さく花の いづれに春の 神ややどると