秋のよの さやけきほどは 笹の葉の はかげにもるる 宿の月影
とこしへに 散らぬつづれの 錦とは もみぢに似たる 鳥の跡かな
若松は 見わけがたなし 後の日に いづれか國の 柱なるらん
春風の 吹かぬくまなし 野の道は 名もなき草に 花ぞさきける
くさぐさの 花さきにけり 春の野は いづこをふみて 人の行くらん
からかさに 人目の関は へだつれど ぬれても見たき 春の雨かな
ものいふと いはぬ花との だてくらべ いはぬはいふに まさる夜櫻
死にぎはは 遠音に聞かん 笛と琴 死んだあとでは 黒焼きにせよ
朝がほが とつたつるべの 底ぬけて 流し出したり 千代のほまれを
たえまなく むらがる星の さま見れば 天の河原に 我はきにけり
五右衛門が 子をささげたる 手なみにて 親のめぐみの あつさをば知れ
手をひきて かまはず廓を ひやかすは かはずにかへる 酒蛙つくの連
夏知らぬ 山は扇も いらぬかや いつもさかしに かけておくなり
ヒマラヤが やつてきたとて まけぬ也 敵にうしろを 見せぬふじ山
萬國の 博覧會に もち出せば 一等賞を 取らん不盡山
海へ来て 泳げぬ我は 白妙の 衣をぬいで 頭かく山
立ちいでて はやいく年を ふるさとに 歸りて見れば あたらしき里
故郷を 雲や霞と 旅の空 羽をかはして 千鳥をしどり
うたかたの 泡ときゆとも うらむまじ 人しら波に けがれたる身は