ゆふ風の俄に寒き桜かな
囀や井戸掘りかへす裏隣り
三つゐて巴に風の蝶々かな
春浅く柑橘の色とこしなへ
残る雪大方は消えて杉の中
春浅く梢組んだる枯木かな
春寒く西日さ迷ふ雲間かな
葉牡丹を活けて静けし猫の恋
浜草をくぐり歩ける雲雀かな
行きずりの人美しや春の泥
白桃のたとへば花のやはらかに
裏庭に木瓜の大樹や温泉の宿
灯の覆ひ少しゆがみて夜半の春
仏華さげし人うしろ来る花の雨
にじみつゝ沈む入日や花の雲
春雷や片明りして庭の松
窓掛の緑静けし夜半の春
吹きかはる微風に浮かむ蛙の子
はたとやみし霰に朧深まさり
梅白し暖かき日も寒き日も
生籬に日もすがらなる蝶二つ
蝶低し花見もどりの人の目に
行春や庭の夕のさみどりに
大雪を掘りひろげ獲たり蕗の薹
鶯や昼大いなる玉の声