和歌と俳句

川端茅舎

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朝顔に夢中になりし法師かな

葛の花と聞きしが淋し下山道

秋風や右に勝れし左の眼

牛の舌に水鉄のごとし秋の暮

秋風や酒量あがりし美少年

草木慟哭昇れるの赤さかな

秋雨や佛と住みて深庇

鳴くや衣桁の袈裟の落ちゐる

秋雨や温泉の香のつきし茗荷汁

陰膳にこたへし露の身そらかな

日輪の寂と渡りぬ曼珠沙華

鶏頭や温泉煙這へる磧

曼珠沙華印結ぶ指ほどきけり

露の空薔薇色の朝来りけり

径深う世を待つ弥勒尊

夜店はやの西国立志編

散るや提灯の字のこんばんは

巌隠れ露の湯壷に小提灯

夜泣きする伏屋は露の堤陰

親不知はえたる露の身そらかな

白露に阿吽の旭さしにけり

白露に金銀の蠅とびにけり

露の玉百千万も葎かな

白露をはじきとばせる小指かな

白露に鏡のごとき御空かな