和歌と俳句

前田普羅

霊泉にシヤボンつかふや明易し

傘さして港内漕ぐや五月雨

夏山や二階なりける杣の宿

潮蒼く人流れじと泳ぎけり

濛雨晴れて色濃き富士へ道者哉

切るや主客五人に違ふ皿

水打たせて尚たれ籠る女房哉

月さすや沈みてありし水中花

蚊帳たれて山の気となる樵夫かな

羽抜鳥高き巌に上りけり

人殺す我かも知らず飛ぶ

水鶏なく宿に眠れる蕩児かな

若竹に風雨駆けるや庭の奥

病葉の散るとてかへる山家かな

夏草を搏ちては消ゆる嵐哉

に膏雨底なく湛へけり

萍に伊吹見出でて雨上る

青梅も拾はで雨の板戸かな

虞美人草のしきりに曲り明易し

明易き人の出入や麻暖簾

旅人のみな袴ぬぐや明易し

明易や雲が渦まく駒ケ嶽

青嵐や主従あきし麦の飯

梅雨風や濁りて懸る金魚玉