和歌と俳句

前田普羅

霜月や酒さめて居る蝮取り

赤々と酒場ぬらるる師走かな

山辺より灯しそめて冴ゆるかな

喜びの面洗ふや寒の水

勧進の鈴ききぬ春も遠からじ

鷹とんで冬日あまねし龍ケ嶽

どさどさと夕日に落ちぬ塔の

農具市深雪を踏みて固めけり

荒れ雪に乗り去り乗り去る旅人哉

雪垂れて落ちず学校ははじまれり

冬山や身延と聞いて駕籠に覚む

冬山や人猿に似て菓子を売る

海老汲むと日々に歩きぬ枯野人

冬海や人岩に居て魚を待つ

鐘なる間庭をありくや降誕祭

大いなる手に火のはねる火鉢かな

八ケ嶽見えて嬉しき焚火

山火事を消しに登るや蜜柑畑

干足袋を飛せし湖の深さ哉

病む人の足袋白々とはきにけり

がぶがぶと白湯呑みなれて冬籠

年木樵木の香に染みて飯食へり

寒雀身を細うして闘へり

聖者の訃海鼠の耳を貫けり

落葉して蔓高々と懸りけり