和歌と俳句

前田普羅

田植水あふれて能登の崩れけり

夏風や棚平らかに海士岬

田植雲漂ひ消ゆる珠洲の海

珠洲人やしぶきをあげて苗投ぐる

泳ぎきて閑かなりけり沖の岩

岩と波語らうを聞く涼み船

独り植ゑひとり上れる深田かな

月見草大輪能登の夜をありく

一輪のおそき牡丹を海女さがす

白鷺にあなどられつつ深田植

蠣殻の浦々かけて五月闇

河豚ばかりあがれる海の薄暑かな

石採の石を落すや鯖の海

大浪の中に底見ゆ鯖の海

鯖寄るや日ねもす見ゆる七つ岩

粽結ふ一束の笹深山より

河豚ばかり寄せくる風に菖蒲葺く

夏山や鯖の海より色濃くて

僧が買ふ鯔の敷きたる笹青し

能登を越す西風つよし粽煮く

鯖寄るやあけくれ黄ばむ能登の麦