和歌と俳句

藤原定家

女御入内御屏風歌

霞しく 春のはじめの 庭の面に まづ立ちわたる 雲の上人

小松原 春の日かげに ひきつれて 千代のけしきを 空に見るかな

春霞 いま行くすゑを おしこめて おもふもとほきすみよしの松

みかさ山 さしけるつかひ けふくれば すぎまに見ゆる 袖の色々

里わかぬ 春の光を 知りがほに やどをたづねて きゐるうぐひす

をちこちの にほひは色に しられけり まきの戸すぐる の下風

春深く 澤邊のまこも 萌えぬれば たちもはなれず あさる駒かな

もろびとの 心にかをる ざかり のどけき御代も 色に見えけり

春の日の ひかりてります 庭の面に むかしにかへる 宿の藤波

けふごとに ひとへにかふる夏衣 猶いくとせを 重ねてかきむ

ちはやぶる 賀茂のみづがき 年を経て 幾世の今日に あふひなるらむ

天の下 けしきもしるく とる苗は 水を心に まづぞまかする

いく里の 人にまたれて ほととぎす 宿のこずゑに 聲ならすらむ

あやめ草 ながきちぎりを ねにそへて ちよのさつきと いはふけふかな

たねまきて ちりだにすゑぬ 常夏の 花の盛りは 君のみぞ見む

ながき日に 春秋とめる 宿やこれ むすべば夏も しらぬ真清水

わけゆけば 夏の深さぞ しられける もりのした草 すゑもはるかに

みそぎして むすぶかはなみ 年ふとも いく世すむべき 水のながれぞ