和歌と俳句

水原秋櫻子

河豚鍋や餅も見分かぬ湯気立ちて

河豚雑炊眼鏡くもりてただうまし

浪花江の一羽はいかに春の雁

初午や燈明凍る雪一片

初午にちなむ手振りや地唄舞

春燈に舞ふ影「築地明石町」

尼将軍発願の寺ぞ母子草

咲くや雪壁かすむ間の岳

すかんぽや峠の雨の降りに降り

まんさくや小雪となりし朝の雨

大櫻枝垂れて雪も直ぐに降る

まづ隠す李の花や雲行きて

時鳥待つなる詩碑の丘青し

実櫻や碑下にしづもる聴診器

朴ひとつ咲くや雨雲高き中

樟萌えぬ書き究めける切支丹

海桐咲き磯の吊橋潮さして

磯釣に黒南風わたる沖くらし

梅雨凝りてまだ真青に簷菖蒲

蔓手毬雲間の杉にのぼりけり

昼もなく梅雨ひぐらしや胡麻豆腐

旅の夜の月下美人の咲くにあふ

立葵ゆらぎ峠をはしる水

河鹿鳴く水いそぎつつ平らなり

枝蛙しきりに山雨呼びにけり