和歌と俳句

水原秋櫻子

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枯蔓をもがき抜けたる鶲かな

枯蔓引くや高枝揺れ返り

行年や一樹の柚の下を掃く

大き花圃水仙のみとなりにける

水仙に来る客ありて茶のけむり

冬ざれや鶲あそべる百花園

魚売の河豚もて来たり吾子よ見よ

わが友の酔へる恵みも慈善鍋

古利根や家鴨とあそぶかいつむり

柴漬や古利根今日の日を沈む

柴漬や里輪のけぶりいと遠く

柴漬や鮠の四五鱗出てあそぶ

岩の門をとよもす濤に海鼠舟

海峡ほそく凪ぎて鯨のよく通る

水鳥やつばらに白き浪がしら

水鳥や安房夕浪に横たはる

浮寝鳥一羽さめゐてゆらぐ水

蒲団荒磯の潮のつぶやける

欄の下かがよふ瀬あり干蒲団

茶の花に富士かくれなき端山かな

八重葎潰えて咲ける茶の木かな

茶の花のこぼれて似たる門辺かな

北風や梢離れしもつれ蔓

北風や絶え間も揺れて木々の蔓

冬ざれやころろと鳴ける檻の鶴