笹鳴や飛鳥川とて涸れのこる
峰の神旅立ちたまふ雲ならむ
時雨れつつかしこむ神の草枕
庭の鶴ほとりを歩む焚火かな
父も来て二度の紅茶や暖炉燃ゆ
寒月に光る畝あり麦ならむ
月いでて遠き落葉のかがやきぬ
赤松を風来て鳴らす枯野かな
蒼天に日輪坐る枯野かな
猛犬のふぐりゆゆしき枯野かな
砂寄せて門の埋もれ避寒かな
足柄の今朝雪かけし椿かな
火の山や真白にかづく昨日の雪
人ひとり通りしさまの深雪かな
見ん事に垂氷ぞしたる樋口かな
牡蠣船や雪に絶えたる楫の音
年わすれ舞子と仮のめをと仲
傀儡にも座設けしたり近松忌
寒念仏月の古町ひとすぢに
炭つぐや音まさり来し夜の雨
葭刈るや水の夕月光りいづ
葭刈や瀬音きこゆる風のひま
猟犬をまつ白樺のほとりかな
綺羅星に峡は明けゆく狩くらや