和歌と俳句

水原秋櫻子

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寒鯉の魚籠にひかりて月ありぬ

夕焼けて寒鮒釣も堰の景

寒鮒の釣れて水垢もとのまま

梨棚や潰えんとして返り花

古町やけふの日和に蘆刈れり

枯蓮の水のそこひの二日月

北風や多摩の渡し場真暗がり

茶の花や野づかさつづき多摩郡

見るかぎり枯れ立つ桑と鵙の贄と

桑畑の鵙が見てゐる焚火かな

いぶかしく焚火あがれる端山かな

千鳥なく闇に火あげてわたし守

古町の篁垂るる小春かな

追羽子に舁きゆく鮫の潮垂りぬ

蜑が妻二日の凪に麦踏めり

海の門しぐるる岩にみさごかな

下総の丘の低きに年木樵

獅子舞は蜑が門辺に笛吹ける

獅子舞は入日の富士に手をかざす

元日や旅のめざめに濤の音

伊豆の海初凪せるに火桶あり

牡丹雪小やみもなくて初芝居

追羽子や音朗らかの庭隣り

山鴉鳴く静けさを機始

渚辺や蜑も見てをる弓始

めでたさや恵方詣の酔ひ戻り