和歌と俳句

水原秋櫻子

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コスモスを離れし蝶に谿深し

白樺に月照りつゝも馬柵の

月明や山彦湖をかへし来る

この湖に鷹まひすめる紅葉かな

啄木鳥にさめたる暁の木精かな

啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々

雲海や鷹のまひゐる嶺ひとつ

雲海の凝りて月あり山紅葉

竜胆や月雲海をのぼり来る

奥紅葉端山芒にかくれぬる

渡り鳥四方に生るる端山かな

唐黍の影を横たふ舟路かな

水鳥のわたるのみなる案山子かな

鮠の列障子を洗ふ波のまま

鮠釣る子障子洗ふは姉ならめ

四ツ手網あがる空よりわたり鳥

利根川の鯉を売りゐる野菊かな

秋耕やあらはの墓に手向花

葛飾や水漬きながらも早稲の秋

葛飾は早稲の香にある良夜かな

しづみ見ゆ手古奈の宮や蘆の花

蘆の穂のいつか月あげ鱸釣

渡り鳥赤城も見ゆる雲間より

秋晴や釣橋かかる町の中

山露にあせたる欄や蚊帳を干す