和歌と俳句

古泉千樫

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下の田に今うつりたる早少女ら小笠はとりてすずしかるらし

梅雨はれて夕空ひろしここに見る筑波の山の大きかりけり

蘆原のあしの葉ずゑの夕あかりよしきり飛びて光りつつ見ゆ

夕ふかき高草のなかに歩み入れり頭のうへを鷺の飛ぶ音

高草原あゆみかへせば西あかりまなこに沁みていよよ暗しも

夕されば馬の親子はかへり居り蚊遣してやるその厩べを

夕ふかしうまやの蚊遣燃え立ちて親子の馬の顔あかく見ゆ

朝早み鳥屋を出でたる鳥のむれ鵞鳥はすぐに堀におりゆく

病める身を静かに持ちて亀井戸のみ墓のもとにひとり来にけり

よき友はかにもかくにも言絶えて別れゐてだによろしきものを

み墓べに今日はまゐりぬ亀井戸の葛餅買ひて帰り来にけり

ひたごころ静かになりていねて居りおろそかにせし命なりけり

おもてにてあそぶ子供の声きけば夕かたまけてすずしかるらし

秋空は晴れわたりけりいささかも頭もたげてわが見つるかも

秋さびしもののともしさひと本の野稗の垂穂瓶にさしたり

秋の空ふかみゆくらし瓶にさす草稗の穂のさびたる見れば

うつたへに心に沁みるふるさとの秋の青ぞら目にうかびつつ

充ちわたる空の青さを思ひつつかすかにわれはねむりけらしも

小夜時雨ふりくる音のかそけくもわれふる里に住みつくらむか

この頃のあかとき露に門畑の蕎麦の白花かつ黒みけり

秋晴れの長狭のさくの遠ひらけひむがしの海よく見ゆるなり

秋晴るるこの山の上に一人ゐて松葉かきつつ火を焚きにけり

この山の峡の小田に稲刈るはたれにかあらむわが村の人

山の上にひとり焚火してあたり居り手をかざしつつ吾が手を見るも

ひとり親しく焚火して居り火のなかに松毬が見ゆ燃ゆる松かさ


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